照りつける太陽と、熱の篭ったアスファルト。窓を開けると、むっとした熱気がクーラーで冷やされた室内へと入り込んだ。あまり寒暖を感じない体ではあるけれど、わたしは反射的に眉を寄せた。
辺境の惑星、地球。連邦にも加盟していない未開の小惑星をわざわざ訪れた理由、それは。

「まあ特にないんだけどさー」
「――ないんかいっ!」
「お、いいつっこみだねつとむくん」

とっても厳しい命令ばかりなさってくださるネーチュラー・ゲーゼ・アルティラ神祀官の下で働いているわたしには、かなり久々の休暇だった。元々はわたしもバーディーと同じく連邦警察の捜査官だったはずなのに、調整アルタ人の中では比較的、学校に通っていたころの授業態度と成績がよかったためか、あれよあれよという間に神祇庁へ異動させられていたのだった。神祇庁にはアルタ人が一定数必要なのは知っていたけど、本人の了承も得ずに勝手に、というのは横暴が過ぎるのではなかろうか。

「でもま、バーディーに比べれば結構ましな待遇なのかもしれないわね。その体すっごく大変そう」
「ちょっと、どういうことですかそれ!」
『どういうも何も、つとむの体が貧弱すぎることなんて前々から自分でもわかってたでしょ?』

からかい混じりに言うと、地球人、千川つとむの口から、少年自身とはまったく別の女性の声が吐き出される。バーディー・シフォン・アルティラだ。とある事情によって少年と二心同体の生活を続けているバーディー。捜査官としての仕事もつとむくんの生活を考えて行わなければならないわけで。二心同体の不自由さを考えれば、ネーチュラーの嫌味に耐え続けているほうが、わたしにとっては数倍ましだと思えた。――まあ、バーディーは持ち前の明るさで、この状況をそれなりに楽しんでいそうだけれど。

休暇で暇を持て余していたわたしは、最近何かと話題になっている地球へやってきていた。捜査官時代の同僚であるバーディーがいるという話も聞いていたからだ。既にバーディーと接触していたネーチュラーが漏らしたわずかな情報を頼りに千川家を訪ねてみると、そこには千川つとむと同居したバーディーがいたのだった。

「ねえつとむくん、この辺って何かおもしろい場所とかないのかな」
「それなりに有名な遊園地なら電車で行ける距離ですけど。そこにでも行ったらどうです」

むすっとした調子でしか返してくれないつとむくん。冗談交じりとはいえさっきのはひどかったかな、とかすかに思う。バーディーがたしなめたのか、うるさいなあ、と私に聞こえないように配慮してか、小声で小さくつぶやいた。(でもわたしは生来聴力がいいから、これくらいの大きさなら嫌でも聞こえてしまう)
ごめんね、と頭を下げると、もういいですよ、とまだ膨れっ面ではあったものの、つとむくんは返してくれた。どうしたら機嫌を直してもらえるだろうかと思案をめぐらせると、いい考えがぱっと閃いた。

「あ、じゃあお詫びにつとむくん、その遊園地行こうよ」
「――え」
『おもしろそー!つとむ、そういうとこ全然行かないし。わたしはちょっと興味あったんだけどさ』
「おっ、おい、バーディーまで勝手なこと言うなよ!」
「まあまあ、お金はお姉さんが全部出してあげますから」

ぱんと合掌したあと、立ち上がりながら、ね、とつとむくんの腕を引く。つとむくんは困惑しながらも、よたよたとわたしについてきた。玄関まで来たとき、ようやく諦めたのか、わかりましたよ、と苦笑して息を吐く。

「宇宙人ってほんと、強引な奴ばっかりだ」