さまはザビー様の妹だ。
実は妹がいたんです、といつもの片言でザビー様に紹介されたのが、僕とさまの出会いだった。
ザビー様が行方不明になってからというもの、ザビー教のいち拠点と化していた僕の城にさまは滞在し続けている。唯一のご兄妹だという話は聞いていたから、さまも僕と同じく、さぞや心を痛めていることだろうと思う。

「宗茂、さまを見ませんでしたか」
「……先ほどまでは、庭をご覧になっていたようでしたが」

庭木の剪定をさせていた宗茂に話しかけると、視線をちらちらと逸らして明らかに何か隠している様子だ。心なしか、鋏の動きもいくらか乱雑になっているような気がする。西の宗茂、などと大層な通り名を持っているくせに、なぜこの男はこんなにもわかりやすいのだろう。馬鹿な子ほどかわいい、とは言うけれど、僕よりもふたまわり以上年上のこの男がそんな様相を見せていたからといって、愛らしいという感情が浮かんでくるはずもない。しかし、信者としてはこんな時でも愛する心というものを忘れてはいけないのだろう……きっと。

半分泣き顔の宗茂が吐いた場所へ向かうと、さまは床に座り込んでいる。
ここはかつてのザビー様の部屋だった。

「どうやって入ったんです。鍵はお渡ししていないはずですが」
「宗茂どのなら、強請ればいつもすぐに貸してくださいますよ」

平時のあの方はとっても押しに弱いですからね、そう言ってさまは懐から黄金色に光る鍵を取り出した。鍵を渡したことは白状したものの、それが常々のことだったなんて話は聞いていない。宗茂には後で何か罰を与えてやらなければならないだろう。僕はわずかに唇を噛んだ。

口を動かしながらも、さまは床に広げた武器の手入れを行っている。ザビー様は大量の小判を除き、所持品の何もかも、身内であるはずの彼女すらも置いていってしまっていた。大筒にはザビー様のお顔を模した紋様が刻まれている。わざわざこの部屋でその手入れをするということは、それはザビー様の残していったものなのだろうか。
さまは戦場へ出たこともないはずなのに、慣れた手つきで武器を弄っている。

さまも武器を扱えるのですか」

今更ながら、僕はこの人のことをあまりよく知らないということに気づく。
黒田や島津といった大名がだんだんとこちらへ攻め込んでくるようになってから、戦の処理に追われてさまと僕が会話する時間も随分と減っていた。信者のほとんどが兵士として戦場に出ているけれど、さすがに女性は例外とされていたからだ。
僕の問いに「この国へ来る前は戦に出ることも当たり前だったのよ」なんでもないように答える内容が信じられなくて、つい目を丸くしてしまう。

「宗麟が許してくれるなら、私もぜひ出陣したいのだけどね」

信者を増やすには少しでも人手があったほうががいいでしょう。微笑むさまが戦場で返り血に塗れる光景を、僕はどうしても想像できなかった。