「待って!」
そう叫ぶ声に、タケルは振り向いた。一匹の猫と一人の少女が、こちらに向かって駆けてきている。そしてよく見ると、その猫はただの猫ではなかった。
――ぱしゅ、という音とともに、猫の眼前に暗号が投げつけられる。猫が身を震わせて一瞬体をこわばらせた隙に、タケルはそれを拾い上げた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
息を切らせて近寄ってくる少女に、はい、と猫を手渡す。
「それ、ミゼットだね。珍しいな」
「え、知ってるの?」
もう販売中止になってるんだよね。言いながら少女は抱きかかえたミゼットを撫でた。
「金沢に住んでた親戚の電脳ペットだったんだけど、引っ越すからって譲ってもらったの。だからまだ全然懐いてなくて、さっきはほんとにありがとう」
はにかむ少女に、タケルは思わずどきりとした。
「わたしっていうの、あなたは?」
「ぼくは、タケル」
タケルくんは第一小?そう訊かれてうんと返すと、
「じゃあ今度の合併で同じ学校になるね」
その言葉に、ああ第三小の子なのか、とタケルは思って、この間会ったヤサコもそうだったことを思い出した。