「ヤサコ、入ってもいい?」
「あ、うん、いいよ」

肯定の言葉を聞いてドアノブに手をかける。開けてみると、親指と小指を立てた状態の手を顔に近づけさせているヤサコの姿。どうやら、ついさっきまで電話をしていたようだった。

「ごめん、電話してたのに邪魔しちゃった?」
「ううん、いいの。学校の友達だから、また明日にでも話せるし」
「そう」

うん、とヤサコはわらった。この笑い方に、なんだかいつもイラっとしてしまう。適当にその場を取り繕っているという感じが見え見えだ。けれどそうさせてしまった自分にも悪い部分があるから厳しいことも言えなくて、もどかしい。

「で、どうしたの?」
「ああ、そういえば用があったのよ。――ヤサコ、コイル探偵局に入ったって本当?」
「…入れられた、ってのが正しいんだけどね。あはは」

私がポケットから数枚の紙切れを取り出すと、苦笑していたヤサコが真顔に戻った。

「じゃあ、これあげる。よかったら使って」
「これ、何?」
「自作のメタタグなの。でももう使うこともなさそうだから、使ってくれそうなヤサコにあげようと思って」

メガビーよりも威力は数段上なのよと付け加えて手渡すと、「こういうのは私よりフミエちゃんの方が喜びそうだわ」私の知らない名前をヤサコが呟いた。