味噌汁と一口に言っても、一般的なものでは赤味噌、白味噌、はたまた合わせ味噌など味噌の種類は数多くあるし、具材だってにんじん、じゃがいも、だいこん、わかめ、ねぎ、油揚げなどなど、数えきれないほどがあるというか別に人それぞれの好みでどんな食材を入れてもいいわけで、「みそしる」そのたった四文字の言葉で一括りにしてしまうのは、とんでもない愚考ではないだろうか。

「前々から思っていたが、、お前馬鹿だろう」
「まあひどい」
「棒読みだな」

ふん、と猫目は鼻を鳴らし、手元に浮かばせていたボードを軽く叩いて消した。私も美味しそうな味噌汁と白米の画像が載った同じものを消し、さっきから耳元でコール音がうるさいメガネの電源を、蔓に触れてオフにした。こんな夜遅くに電話をかけてくる非常識なお馬鹿さんにはこれくらいの対応でちょうどいいのだ。もし何か緊急の連絡だったとしても、よくわからないけどきっとなんとかなるだろう。たぶん。

「…どうにもならなくなっても助けないからな」
「エスパー魔美?」
「さっきから、全部声に出てた」

というか魔美ってなんだと猫目が訊いてきたので、ググレカスと返しておいた。電脳ネットやメガネの仕組みには気が狂ってるんじゃないかと思うほど精通しているのに、どうしてこういうしょうもないことをわざわざ尋ねてくるのだろうか、この男は。じゃあまずお前がそんなくだらんことを言うなというつっこみが入りそうではあるが、既に言ってしまったのだから仕方がないのである。(まあ、そういう話でもないんだろうけど)

「ところでタケルくん遅くない?」
「今日は林間学校に行ってるとお前が来たときにも言っただろう」
「ふーん」

適当な返事をし、立ち上がって窓際まで行くと何か言いたげな猫目の視線を感じた。別に猫目とはイチャイチャカップルだとかそういう色気のある関係ではないから、そんな視線は正直言ってどうでもよかった。猫目だって今のにそんな意味は微塵も含ませていないだろうし、大方私のふざけたような態度――ふざけているつもりは毛頭ないが――への文句といったところだろう。

「この朝顔、あんたの?」

ベランダに置かれた、窓の向こうの植木鉢を指して問うと、「タケルのだ」簡潔な返事。夏休みの宿題で観察を強いられているのだろうか。こんなものは世話をせずに最初の一週間で枯らしてしまって最終日近くにでっち上げるのが世の常だと思っていたのだけれど、もう八月も半ばに入っているのにぴんぴんしているとは、タケルくんは猫目に似ずひどくまじめな少年のようだ。
それなりに活発で勉強も暗号屋の仕事もできるかわいらしい少年。よくできた子だと思ったものの猫目もかつてはそのような子供だったことを思い出し、タケルくんは間違ってもああはなりませんようにと朝顔に手を合わせると、さっさと帰れ、そんな台詞を猫目が吐いた。
まったくもって、不愉快である。