コンビニを出た瞬間、その寒暖差に思わず身を震わせる。
今日の最高気温は、と笑顔で話すアナウンサーの顔は思い出せたのに、肝心の気温自体は浮かんでこなかった。どうせ一桁だろうと勝手に思い込むことにして、私は荷物を自転車の前籠に載せた。一度電柱にぶつけたせいで、前籠は無様に歪んでしまっている。そろそろ買い替え時かな、などと考えて私は地面を蹴りつけた。

家に帰るとメガネをかけたままのフミエがばりばりと煎餅をむさぼりながら炬燵に寝転んで漫画雑誌を読んでいた。なんであんたがいるの、という言葉を飲み込んで、私は買ってきたジュースとお菓子を冷蔵庫に片付けていく。フミエとは昔から家族ぐるみのつきあいで、子供同士が勝手に家へ上がりこむこともしょっちゅうだった。まるで我が家のようにひとの家でくつろぐことも常ではあるのだけど、私の漫画を汚れた手で触るのはいい加減やめてほしい。

「おかえり。今日寒かったわね」
「漫画読むのはまだいいけど、煎餅こぼしたりしないでよね」

ごめんごめんと明らかに反省していなさそうなフミエを横目に、私は洗面所へと向かう。蛇口をひねった直後の水はまだ冷たくて、皸の多い手にはかなり沁みた。女の子なんだからもう少し肌に気を使いなさいと親にもよく言われるけど、あれだけがさつなフミエにはにきびも手荒れも見つからない。神様ってのは残酷だ。

「その雑誌私まだ読んでないんだけど」
「さっきは別にいいって言ってたじゃない」
「……まあ、いいけどさあ」

炬燵に入りながら私はリモコンのスイッチを入れた。フミエは世間話をする気はなさそうだし読もうと思っていた雑誌は奪われているし、私はとても手持ち無沙汰だった。夕方のテレビ番組なんてワイドショーかドラマの再放送くらいしかなくて、あまり真面目に見る気はしない。チャンネルはそのままに、私はフミエがどこからか調達してきていた煎餅に手を伸ばした。コンビニで買ったプリンもあるけど、そっちは夜食にすればいいのだ。
煎餅の甘辛さを噛み締めているとジュースを冷蔵庫にしまうべきじゃなかったという後悔の念が押し寄せてきて、けれど炬燵から出るのも億劫で、フミエに頼んでも取ってきてくれるなんてことがありえないのはわかりきっている。
私は黙って小袋の中の煎餅を手で砕き、そのかけらをまた口に放り込んだ。