すう、と垂直に煙が立ち上る。独特のつんとした匂いが放たれて、飲み干したガラスコップに残っていた氷がからんと爽やかな音を立てた。――夏だなあ。

「あ、」

縁側に腰掛けたままぼうとしていると、垣根の向こうにリョウの姿が見えた。リョウもこちらに気づいたらしく、破顔して小さく手を振ってくる。じっとしているのもなんなので、靴を履きつつ立ち上がった。ずっと同じ体勢で座っていたものだから、腰からごきりと嫌な音がした。

「今日は仕事休みなの?」
「うん、リーグも夏季休暇中なんだ」

リョウは、まるでそこらにいる“むしとりしょうねん”のようだった。麦藁帽子を被り、大きな虫取り網をその手に携えている。さすがに、服装は普段どおりだったけれど。
ついてきたはいいもののどこまで行くんだろう、と思い口を開きかけたとき、道路脇の掲示板が目に入った。“虫取り大会開催”。開催日時まではあと三十分。きっとこれに参加するんだろうと納得して、私は開きかけた口を閉じた。



「いやー満足満足」

惜しくも優勝は逃してしまったけれど、リョウはたくさんの虫ポケモンをゲットしていた。私は照りつける日差しに耐え切れず早々に退散してしまったのだが、それでも確認しただけでストライク、カイロス、アゲハント、スピアーと大物ばかり。これが四天王の実力、なのだろうか。

「この公園、珍しい虫が多いんだよね!」

負けてしまったことなどまったく気にしていないかのように(というか本当に気にかけていないのだろう)満面の笑みを見せるリョウにつられながら「また今度一緒に虫取り行こうね」その情熱に思わず苦味を含んでしまう。

全力で照り付けていた太陽も、だんだんと赤みを増していくように感じた。