二十分ほど前から、は滑り台を滑り続けていた。
滑っては上り、滑っては上りを機械的に繰り返す。不揃いに切られた髪の間から姿を覗かせる小さな耳は寒風に当てられ、赤く変色し始めている。
ずざざ、と、斜面と服の擦れ合う音を聞くのは何度目になるだろう。マオは風に煽られてがたつきを起こすベンチの下から這い出した。

「さっきから何をしてるんだ」
「……することがなくて、暇、だから」
「かまってほしいってのか」
「そういうわけじゃない、けど」

は象の鼻先から立ち上がると、のしのしと地面を踏みつけながらまた滑り台の階段へと向かっていく。砂利が入ったのか途中でスニーカーを脱ぎ、軽く叩いて砂を吐き出させていた。
猫背のが鈍い動きで階段を上っていくのを見て、マオもその背を追うようにゆっくりと駆け上がる。
斜面が体重に負けてしまっているのか、“滑っている”とは到底言えないスピードではずるずると下っていく。マオが低い頂上に到着するころ、既につむじは静止していた。

「そういえば、」
「どうした?」
「昨日、黒がくれた」

座ったままごそごそとジャージのポケットをまさぐり、は手のひらに何かを載せた。ただし、マオの位置からはそれを確認することができない。
の細い体と柵の間をそっとすり抜け、マオは軽く曲げられた膝に体を預けた。

「何なんだそれは」
「たぶん、お菓子、とか」

一節ごとに言葉を区切りながらが手に載せた小さな包みをほどくと、素っ気ない包みにはこれまた素っ気ない菓子がくるまれていた。

「マオ、ほしい?」
「……言っておくが、猫にとってチョコは猛毒だ」
「そうなんだ」

眉間に皺を寄せるマオに一言返して、妹子はその小粒を口に放り込む。
あまり美味しくないね、と率直な感想を述べたに、そうかとマオも一言返した。