「…何してるんだよ」
「あらアーサー、お元気?」

アーサーは目に見えて不機嫌になった。というか蔑むような目をした。アーサーの隣を歩いていた彼の兄、ウィリアムさんは目を丸くしている。私は素早く立ち上がり、服についた葉と砂を払った。

「ウィリアムさん、初めまして。と申します」
「ええと…初めまして。って、って――」
「兄さん、先に行っててくれない?」

私が笑顔を作って挨拶すると、アーサーは三白眼を細め、ウィリアムさんの言葉を遮った。それにむっとすると、アーサーではなく逆にウィリアムさんが一歩引いてしまう。ウィリアムさんが半笑いでそそくさと立ち去るのを、残念に思いながらも黙って見送った。

「で、何でお前はそんなところから出てくるんだ」
「……」
「言いたくないなら別にいいけどな」
「ちょっと待ちなさいよ。言えばいいんでしょ言えば!」

ウィリアムさんを追い立てるような態度に怒って何も言わないでいると、それ以上追求しようともせずにあっさりと立ち去ろうとしてくれるアーサー。それに乗せられる私も私だけれど、アーサーは私の扱い方が上手すぎるように思う。大して長い付き合いというわけでもないのに。

「ただお父さまがうるさいから、逃げてきただけよ。それだけ」
「お前がこの家に来るのはいつもそんな理由ばかりだな」
「ふん、それじゃあ『アーサーに会いたくて…』とでも言えばいいのかしら?」
「まだそのほうがましだ。伯爵家のご令嬢が生垣の下をくぐってくる理由が親の説教に耐えかねてなんて、馬鹿らしすぎる」

私の軽口に嫌味で返してくるアーサーは、本当に小憎たらしい。実はアーサーに会いたいというのもまったくの嘘っぱちというわけでもないのだけど、彼は気づいているのだろうか。無駄に聡いアーサーのことだから、言いはしないけど感づいていそうな気がした。