「えらく冷えるな。こう雪が積もってちゃ、まともに進軍もできやしねぇ」
「……」
「どうした、
「……寒いんですか?」
「ああ、まあな」

そうですか、と言っては考え込むように立ち止まった。隊のしんがりとしての二人だったから、ここでもたもたしていたら隊列からはぐれてしまう。
急げば大した事はない距離だとしても、ここに留まり続けたって何のメリットもない。そう思って、ヘクトルはうつむいたに手を伸ばす。

「ファイアー」

突然の口から弾き出されたその詠唱に、ヘクトルは反射的に手を引っ込めた。無意識に後じさった体の脇を、炎の弾丸が駆け抜けていく。いつの間に取り出していたのか、マントの下の右手には魔道書が携えられていた。

「……どうしたんです?」
、てめっ……!」

思わず斧を取り出しかけたヘクトルだったが、の本気で不思議がっているような顔に、たちまち怒りが抜けていった。

「少しは暖かくなるかと思ったんですが」
「……おまえ、それにしても少しはやり方ってもんがあるだろう。せめて一声かけてからにしてくれ、心臓に悪い」
「すみません。以後気をつけます」

基本的に無表情で、今も相変わらずの顔をしている。けれども、ヘクトルには彼女が今までにないしょげ方をしているように見えた。

「――本隊から離れちまったな。急ぐぞ」

その言葉に私のせいでとまた頭を下げるに、ヘクトルは小さく舌打ちした。してしまってからこれが印象を悪くする原因だと気づき、わずかに後悔する。
舌打ちが聞こえていたのだろうか、は視線をヘクトルに合わせようとはしない。

「もういいから、行くぞ」

ヘクトルは強引にの手を引いた。