「阿部って、嫌な奴だよね」
「はぁ?」
何それ、喧嘩売ってんのか。いやいや売ってませんよ。売ってるようにしか見えねーんだけど。
「だってあんた、話しかけられたらいっつも最初にはぁ?って言うじゃないよ。今だって、そうでしょ。あれ、ちょっとイラってくるんだもん。効果音で表すと、ビキビキ、みたいな」
効果音とか、意味わかんねーよ。まあそれはそうかもしんないけどさ、でもはぁはやめなね、そんなんじゃ女の子にもてないよ。もてるとかもてないとか、そういう話なのかよ。いや違うけど、例えなんだから理解してよ、そんくらい。
「…じゃあ、これからは、気をつける」
「そうした方がいいって、絶対」
あべって、顔はそこそこいいんだし。そこそこって、それ褒めてんのか?一応、褒め言葉ですよ。そこそこが褒め言葉とか、やべェ、なんかうけるんだけど。


阿部はげらげらと笑い出した。これはつぼに入ったというやつだろうか。ちゃんと考えてみるとたいして面白くないことでも、なぜだか笑っちゃう、みたいな。そういう経験は私にもままある。ので、放置しておいてあげることにした。
(笑うのは健康にいいらしいし、ね)
高校球児の健康のためだと思い、私は阿部の笑い声をBGMにしながら弁当を食べることにする。そしてふと、阿部が声を出して笑うのを見たのは初めてだと気づいた。