緊急事態 至急うちまで来られたし
それだけ書かれたメールがから届いた。携帯には、22:04の文字が表示されている。いくら明日が休日だとはいえこんな時間に呼び出すなんて非常識極まりないが、緊急事態なんて書かれると気になって仕方がない。(くっそ、何なんだよ一体)
ちょっと出かけてくる、とだけ言って家を出た。母親は弟にべったりだし親父も基本的に放任主義だから、咎められることはない。
いつもより早めに、自転車を漕いだ。


チャイムを鳴らすとばたばた走る音がして、がららと玄関の引き戸が開いた。

「ああほんとに来てくれたのありがとう、ってことでどうぞ上がってください」
「…お邪魔します」

は何やら疲れ切ったような顔をしている。先導されて中に入ると居間の方からの姉さんが出てきて(前に一度来た時に少しだけ話したことがある)、「ああ阿部くんこんばんは。、悪いけどあたしもう無理だから二人で頑張って。よろしくね」「ええええひどいよそれ」「いやほんとにもう無理。これ以上は、ダメ。ゼッタイ」「いやいや私もギリギリって感じなんだけど」「阿部くんに頑張ってってかわいくお願いしなさい」「それなんて鬼畜よ、いろんな意味で」腹を抑えながら階段を上がっていった。

「…俺何やらされんの。すっげえ嫌な予感するんだけど」
「いや、実はですね」

嫌な予感、というのは見事に的中していて、居間に入ると状況が一目で理解できた。 テーブルの上にででんと鎮座している、巨大なゼリー。いわゆるバケツゼリーとかいうやつだ。(これ食わせるために呼んだのかよ…!)甘いものは特に嫌いじゃないけど、この時間にこれだけ食べるのは正直つらいだろう。

「姉さんと一緒に作ったのはいいんだけど、今日両親いないし食べ切れなくてさー」
「もうちょっと考えて作れよ」
「でも、一応半分くらいは二人で頑張って食べたんだよ?」

これで半分って、どんだけでかいの作ったんだ。「6リットル」「お前馬鹿だろ」「…返す言葉もございません」 でもしゅんとうなだれるを見ているとどうにも放置して帰るなんてこともできなくて、「あーもう仕方ねえな」俺は偉そうに佇むゼリーの前に座った。

「たかやんはツンデレだよね」
「たかやん言うな。あとツンデレって何だツンデレって」
「うへへ」

にやにや笑うからスプーンを取り上げ、俺はこの馬鹿でかいゼリーを崩す作業に取り掛かり始めた。