放課後。
教室に忘れ物をしてしまった私は、ふんふんふふんと何の曲なのか自分でもよくわからない鼻歌を歌いながら、廊下を歩いていた。
延々とその奇妙な曲を歌い続けてようやく教室の入り口までたどりつく。そして戸に手をかけようとした途端、内側から開いたもんだから驚いた。(うお!)うつむきがちな女の子が飛び出してきて、肩がどんとぶつかる。ごめんなさいとひとこと言って、その子は逃げるように走り去っていった。何なんだ一体と思いつつ中に入るとクラスメイトで野球部エースの高瀬がぼーっと突っ立ってたものだから、なんとなく事情を察した。

「告白でもされたんですか」

机の中を引っ掻き回しながら訊くと、聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声で高瀬がうんと答えた。さすが顔が良くてスポーツもできる男の子。これだからもてる奴は、などと思う。私なんて告白とか一度もされたことないってのに。



(あったあった。これでやっと帰れる)目的のノートを鞄にしまいこんでいると、「は何で振ったのかとか訊かねェの」高瀬が質問を投げかけてきた。
「プライバシーっていうの?そういうの。普通訊かないんじゃない」
「そっか」
「それに高瀬が誰と付き合おうが付き合うまいが私には大して関係ないしねえ」
答えながら出口へ向かい、「じゃあまたね」ドアへと手をかける。出ようとして、
「俺、が好きだから断ったんだけど!」
「…はあ、そうですか」
立ち止まるなんてことはせずにそのまま閉めた。