「何やってんの?」
「焼芋、ですが、何か」

暇だったので母の実家から送られてきた芋を庭で焼いていると、三軒隣の田島さんちの息子さん――だった気がするが、あまり会う機会もないので間違っている気もする――に話しかけられた。
最初は焚き火を咎めてくるのかと思ったが、じっと見てくるだけで特に嫌がっているわけでもないようだった。

「あの、田島くん学校は?まだ正午回ってない時間だけど」
「うちの学校、今期末テストの真っ最中なんだよなー。部活にも行けないから暇で暇で」

田島くん、という呼びかけを否定されなかったということは、おそらくは田島さんちの息子さんで間違いないのだろう。ただし下の名前は未だに思い出せない。
というかテスト期間中ならこんなところで油を売っていないで勉強しろよ。そう思ったが、私も高校時代はけして勤勉だとは言えない生活を送っていたから、言うのはやめておく。

「なあ、これいつ焼けんの?」

いつの間にか、庭に入り込まれていた。この様子だと、厚かましくもこの芋を食わせてもらえると思っているようだ。町内会のイベントくらいでしか接点がないというのに、どうしてこうも馴れ馴れしくできるのだろうかと疑問に思う。
芋はまだ山ほど残っているし、分けてやっても構わないと言えばそうなのではあるが。



芋を頬張りながら、田島さんちの以下略はよく喋った。高校の授業のこととか、自分の加入している野球部のこととか、昨日の晩御飯のこととか。正直言って心底どうでもよく、私ははいはいと適当に相槌を打ちながら聞き流していた。

「そういやさ、姉ちゃんは大学とか行ってないの?」
「もう卒業しました。なので今は無職です」

大学卒業から無職という流れはあまり一般的ではないから、なので、という接続詞は何か間違っている気がした。そしてその後、死ぬほどどうでもいい突っ込みだと思った。

「あ、それ知ってる。ニートって奴だろ?」
「本人の目の前でよくはっきり言えますね」

返す言葉もないので反論はしませんが。そう付け加えると、何が面白いのか、以下略はにししと笑う。
――その笑顔に、なんだか胸が苦しくなった。比喩ではなく、物理的に。
明らかに芋が喉に詰まっているだろうという不快感を覚えて、私は腰を上げる。

「ちょっとお茶持ってくるから」

言い残して台所へ引っ込もうとすると、せんきゅー、と下手くそな英語が帰ってきた。
茶を持ってくるとは言ったけど、お前の分まで持ってきてやるとは言っていないんだぞ、などと適当なことを考えながら、私は室温で冷え切った麦茶をその場で喉に流し込む。
余計に詰まって、もっと気分が悪くなった。