部室に向かおうとして廊下を歩いていると、ひどく奇妙な光景が目に入った。

「とゆーわけだから、ながもんよろしくね」
「……」

なんと、長門が同級生らしき少女と親しげに会話しているではないか。あの、対有機なんとかかんとかという無口な長門がだ。――まあ、見たところ少女が一方的に話しかけているだけなのだが。
とは言っても長門がSOS団のメンバー以外と交流を持っている姿は見たことがなかったし(朝倉は別とする)、俺にとっては驚愕に値するものだった。
そのまま進んでいくとすぐに少女は離れていき、その場には無表情の長門が残されるのみだった。

「よ、長門。ありゃ誰だ?」
「……

。ありふれた名前のような、そうでないような。とりあえずなかなかのかわいこちゃんだったようには思う。

「しかし、長門に気安く話しかける奴も珍しいな。何話してたんだ?」
「今日は用があって家に帰れないから、天気予報を録画しておいてくれない」
「……は?」
はそう言っていた。話はそれだけ」
「それだけ、って……」

長門の言が事実だとすれば、そのという奴は相当の不思議ちゃんだろう――長門もそうではあるが。とにかく長門へ気さくに話しかけるだけでも驚きだというのに、天気予報って何だ天気予報って。

「長門、そのとやらとは仲がよかったのか」
「さっきのが初めての会話」

……なんてこった。



その後、俺はいつものように部室でハルヒの意味不明な言動に付き合い、いつものように帰宅し、いつものように夕食をとって、いつものように布団に入り、そして翌日。
放課後になって、俺はまたいつものように部室へ向かおうとしていた。
そこで出くわしたのが昨日と同じ光景である。こうも続けて奇妙なものを見てしまうと、また何か頭の痛くなるような超常現象に巻き込まれているのではないかと勘繰ってしまう。

「とゆーわけだから、ながもんよろしくね」
「……」

その時俺は、昨日とただひとつ違っているものがあることに気づく。の手にDVDらしきが収まっていることだ。――長門の奴、本当に天気予報を録画したのだろうか。長門のことだから、特に番組指定もされていなかったようだし、きっと昨日放送されたすべての天気予報を録画したに違いない。
ヒューマノイドなんとかも大変だ、と俺はひとごとのように思った。実際ひとごとだけどな。

「今日は何を話してたんだ。また何か頼まれてたみたいだったが」
は、自分のことを魔法少女だと言った」
「…………は?」
「情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースの私とは話が合うだろうからよろしくと」
「……」

長門の突飛な発言に、思わず目を白黒させる。が、どこかでその言葉を事実だろうと信じてしまっている自分がいるような気もした。ほんの数週間前までは、こんな話を聞かされても一笑に付すだけだっただろうに。
……不幸な体質になってしまったものだ。