放課後になり、まあいつものように俺は部室へと足を向けていた。
階段を上りきってやっと部室が見えるところまで来た時、文芸部の部室から出てくる見覚えのない女――いや、よく見ると見覚えがなくもない。例の魔法少女が目に入った。

「朝比奈さんはどうしたんだ?」
「彼女ならまだ来ていませんね。涼宮さんは?」
「俺は知らん。とにかく大人しくしてくれてるといいがな」

部屋に入ると、古泉は中央のテーブルにチェスを広げていた。長門の方も普段と変わらず、窓際のパイプ椅子に腰掛けてこれまた分厚い本を読んでいる。
ハルヒの奴はホームルーム終了の号令が終わった途端、猛スピードで教室から駆け出していった。多少嫌な予感がするが、俺が何もするなと言ってもハルヒが行動を抑えたりするとは到底思えない。俺にできるのは、何かが起こってしまった後にできるだけ穏便に進むよう努力することだけだ。……考えていて空しい。

「そういえばさっきを見たが、何の用だったんだ」
「長門さんに何か返しに来たようです。ついでにチェスをやらないかと誘われまして」

この通り完膚なきまでに叩きのめされてしまいました、さすが魔法少女ですね。古泉にそう言われてとりあえずチェス盤に目をやったものの、チェスがわからない俺には、やはり何がどうなっているのか理解できなかった。
というか、チェスの勝敗に魔法少女は関係あるのか。



数日過ぎてまた放課後になり、以下略。
部室のドアに手をかけようとしたところで、朝比奈さんのいつまでも聞いていたくなるようなとんでもなくかわいらしい悲鳴が中から聞こえた。またハルヒに引ん剥かれでもしているのだろうか。開けるべきか開けざるべきか、一瞬途惑う。そんなこんなで俺が固まっているうちに、逆に向こう側から開けられてしまったのだった。

「あ、ども」
「……どうも」

出てきたのはで、左手には手の平サイズのデジタルカメラが携えられている。また来るねぇ、と能天気な声を出しながら、俺が二の句を告ぐ間もなく去っていった。ハルヒの全力疾走と同じくらいのスピードを出してるんじゃなかろうかと、後ろ姿を横目で追いながら部屋に入る。

「朝比奈さん、どうしたんです」
「……ひーん……」
「彼女、朝比奈さんのメイド姿をありとあらゆる角度から激写していきましてね」
「――で、お前はそれをのんびり眺めてたわけか」
「僕が手を出す暇すらなかったんですよ。まるで嵐のようでした」

そのにやけ顔で言われても説得力は皆無である。未だ座り込んで小さくなっている朝比奈さんと古泉の二人以外でこの部屋にいるのは、置物になっている長門だけだった。
ありとあらゆる角度というのは聞き捨てならなかったが、今のところは口に出さず、俺の心の中だけに留めておくこととしたい。