「あの」
「なんだ」
「うんこしたくなってきたんですけど」

私がそう言うと、隣でコーヒーを飲んでいたシャルナークさんがむせ返った。汚いなと私はひとごとのように思う。

「汚いのはお前の方だろう。食欲が失せる」
「コーヒーは、食じゃないと思います」

非常に不快そうな、汚いものを見るような目でクロロさんは私を見る。シャルナークさんは未だに喉のつかえが取れないらしく、こほこほと咳き込み続けていた。
私は席を立った。



「ねえ、あの子っていつもああなの?」
「まあそうだな」

ついさっきまで不愉快そうな顔をしていた割に、今はまるで何事もなかったかのようにクロロは古書を広げながらコーヒーを啜っている。マイペース、というんだろうか、こういうのは。(どっちが?)
自分もそれなりに他人を振り回す人生を送ってきたとは思うものの、あの少女レベルの自由人にはなりたくないな、と思う。



長いトイレから戻ると、クロロさんは文庫本を読み、シャルナークさんは携帯を弄っていた。
どこぞの女子高生みたいだ、となんとなく思う。友達と同じ空間にいながら、自分の世界に没頭する。かといって仲良く会話していたとしても、それはそれで女子高生ではあるのだけど。
そこまで考えて、クロロさんとシャルナークさんは友達という間柄なのだろうかという疑問が頭をもたげた。

「すっきりしました」

私の言葉には何も返さず、クロロさんは相変わらず冷ややかな目を私に向けていた。シャルナークさんはなんだかよくわからないが、携帯から目を離してにやにやとこちらの顔を見ている。私の顔は笑えるほど醜いんだろうか。
半乾き状態だった私の手を見て、クロロさんは黒いハンカチを差し出してくる。

「汚いから返さなくていい」

どっちが?と即座に私は思った。