クロロさん、シャルナークさんと一緒に歩いていると、不意に気分が悪くなった。ので、
私は道端へ、胃液でぐちゃぐちゃになった朝御飯を吐き戻した。クロロさんはゴキブリでも見たかのような目で私を見、シャルナークさんは普通に引いていた。

「お前は何がしたいんだ」
「何もしたくないです、気持ち悪いから」

常に冷静なはずのクロロさんが多少いらついているのはわかる。ただ、返事を考えるのも億劫になっていただけだ。別に相手を不愉快にさせることが趣味だとか、そういうわけではない。単に私とクロロさんは壊滅的に、波長というかタイミングというか、そういったよくわからないものが合わない。それだけである。

「で、大丈夫なの?っていうかなんでいきなり吐いちゃったわけ?」
「さあ。クロロさんの背中を見ながら歩いてたら、急に吐きたくなったんですよ」

シャルナークさんが引いていたのは私がぼとぼとと口から汚物を吐き出していた間だけで、そのあとは我に返ったようにてきぱきと私とクロロさんを促し、そばのファミレスに押し込んだ。シャルナークさんはお世辞抜きで整った顔立ちをしていてもてそうだし、目の前で私くらいの年の女性に、真昼間から脈絡なくげろげろと吐く様を見せ付けられたことなんてなかったんだろう。
クロロさんのためにコーヒーを注文し、吐いた私には冷たいものがいいだろうとドリンクバーを注文して、その上わざわざ烏龍茶を注いできてくれるという好青年ぶり。引っ掛けられた女性も多いだろうなと私は失礼なことを思った。

「急に吐きたくなる時とか、稀によくあるんです。確かにTPOをわきまえていなかったかもしれませんが」
「お前がわきまえないのはいつものことだろう。非常に鬱陶しい」

いつの間にかクロロさんはどこからともなく文庫本を取り出し、読んでいた。わずかながら不機嫌そうな雰囲気を醸し出していたが、隣にいるシャルナークさんは気づいているのかいないのか、にこやかな表情で私にぺらぺらと話しかけてくる。正直なところ会話の内容は(私にとっては)どうでもよかったし吐いたばかりで疲れていたので、私は適当なところでうんとかはいとかそうなんですかとか、やる気のない相槌を打っていた。私がろくに話を聞いていないことはわかっているだろうに、シャルナークさんは嫌な顔ひとつせずに延々と話しかけてくる。けれど今は、そういう好意をあまり受けたくなかった。面倒だし。
右から左へ聞き流しながらクロロさんの手元の本に目をやると、表紙に何か書いてあったが共通言語ではないようで、私には読むことが出来なかった。