雨の降りしきる中、収集所に集められた袋に折り重なるようにして鴉の死体が転がっていた。

ちゃん、どうかした?」
「いや、なんでもない。ごめん」

別にいいよと笑う春奈の笑顔からは、実兄との別れなどまるでなかったかのような雰囲気が漂っている。私はひどくいたたまれない気分になった。なっただけだが。
そのまま土砂降りの中を歩き続けて家に着いた私たちは、季節外れのおでんを突いたり女子特有の少し恥ずかしくなるような会話なんかをしながら同じお風呂に浸かったりバラエティ番組を横目に湿った頭を乾かしあったりしながら、日付が変わるころに布団に入った。

「ねえ、ちゃん」
「どうかした、春奈?」
「……やっぱりなんでもない」

目が慣れつつある暗闇で春奈は体の向きを変え、私から春奈の表情を窺うことはできなくなった。会話も失せ、ざあざあと降り続く雨音がやけに大きく感じる。
私は枕元のテーブルに置かれた春奈の眼鏡を手繰り寄せた。私から春奈が見えないのと同様に、壁際へ体を向けている春奈からもきっと私の行動は見えていないだろう。
――少し、視界が明るくなった気がした。



目を開けると、朝になっていた。
眠気眼のまま無意識に手を目元にやると、あるべきものがそこにはない。呆けた頭で辺りを見渡すと、あるべきものはあるべき場所に復帰していた。

「眼鏡かけたまま寝るなんて、危ないじゃない。今度からはだめだからね」
「ああ、ごめん」

くいくいっと眼鏡を押し上げる春奈からまるで漫画のようなわざとらしさを感じて、私は思わず噴き出した。

「もう、何で笑うのよ」
「ごめん、つい」

照れたように怒る春奈の後ろでは、無意味な元気さで雀が囀っていた。