あなた、一橋ゆりえちゃん?後ろから声をかけられて、ゆりえは自転車を押す手を止めた。

「…はい、そうですけど」

きょとんとした顔で、ゆりえは話しかけてきた女性を見つめる。知った顔ではない。ゆりえよりも年上であることは確かだろうが、はっきりとした年代がわからない、不思議な女性。よかった、間違ってたらどうしようかと思った。そう言って女は胸を撫で下ろす。

「えっと、あなた、誰ですか?」

もじもじしながらゆりえが問いかけると、そういえば名乗ってなかったね、ごめん。顔の前に手刀を作って、ですと名乗った。

さん…」

聞き覚えのない名前だった。クラスメイトの家族というわけでもないようだ。何の用だろう、と思っていると、女はにこりと笑ってこう言った。

「私も、神様なの」

突拍子もない発言にゆりえは驚きを隠せない。その様子を見てびっくりするのも無理ないよねと目の前の女性は言うが、ゆりえ自身、その神様なのだ。自分以外に人の神様がいてもおかしいことなんてないと思い、「ちょっとだけ、びっくりしました。でも、うそじゃないんですよね」答える。そうして、ゆりえちゃんはいい子だね。ほほえんだ。ゆりえは驚いて一瞬目を見開き、

「そ、そんなこと、ないです」

頬を染めながら照れた。ほんとうのことだよ、とゆりえの頭を撫で、また縁があったら。それだけ言って立ち去ってゆく。
ゆりえは撫でられた部分に手を当て、八島さまに今日のことを話してみよう、と、思った。