妖怪たちもめったに寄りつかない裏庭、そこで必死に背を伸ばして木の葉に触れようとするを、牛鬼は見た。

「……何をしている」
「今日は七夕でしょう。本当は笹がよかったのだけど、この家にはないから」

説明になっていない説明だったが、おおよその意味を察して牛鬼は小さく頷いた。
しかし爪先立ちで手を伸ばすはかなり背が低く、枝葉に指がかすりもしない。

「それではいつまで経っても届かないだろう」
「そうね」

でも他の人に願いを見られたくないんだもの。そう言っては牛鬼から隠すように短冊を胸に抱く。だからこんな人気のないところを選んだのかと牛鬼が一人納得していると、はきょろきょろと踏み台になるものを探し始めた。

「この裏庭、本当に何もないわね。あれだけいる妖怪が寄りつかないのも納得だわ」

呆れたようにする小雪に、牛鬼は自分自身にしかわからないような、小さな苦笑を漏らした。それに気づいたのかそうでないのか、牛鬼の顔をちらと見遣った小雪は、そのまま踏み台探索に駆けていこうとする。

「――わ、」

突然、牛鬼が小雪を抱き上げた。一瞬びくりと固まっただったが、おそるおそるといったように枝へと手を伸ばし、けれどしっかりと短冊を結びつけた。

「短冊、見ちゃいけないんだからね」
「……何か悪事でも企んでいるのか?」
「だから、秘密なんだってば」

見張っているつもりなのか、木に縋りつくように動かないに、牛鬼は二度目の苦笑を漏らす。
早々にその場から離れた牛鬼だったが、木が見えなくなる直前に振り返るとの姿は消えていた。