「あ、先生、こんにちは」

にこにこと笑いながら見知らぬ少女がこたつに入っていた。私の家の。

「…誰ですかあなた」
「まあ、そんなのは些細なことですよ、うふふ」

まあお茶でもどうぞ、と湯呑みを差し出される。私の買ったお茶が入った、私の湯呑み。なのについ感謝の言葉を述べてしまうのは、間抜けというほかないだろう。けれど突っ立っていても仕方がないので、私も彼女の向かいに座ることにした。

「で、あなた、何者なんです」
「うふふ。警察でも呼びますか?」

変わらない笑顔で返されて、ため息をつく。あまり動揺していない自分に対して、だ。あのクラスの奇妙な生徒たちを相手にしていると、これくらいのことではほとんど動じなくなってしまう。そんな自分が哀れすぎて、どうしようもない気分になった。悩み事ですか?向かいの少女が私の顔を覗き込むようにしながら言った。

「…あなたが立ち退いてくれれば、悩みのひとつは解決するんですが」
「へえ、そうなんですか」

そうして背中を丸める少女。出て行く気は毛頭ないようだ。

「あ、悩み事は訊きましたが、解決してあげるとは言っていませんから。うふふ」
「…」

本当に警察を呼んでやろうかと一瞬考える。――まあそんなことを思ったって、どうせしないんですけどね。(この人に連れ込まれたんです!とか嘘八百を並べ立てられたりしたら100%こっちが有罪でしょうし)

「本当に、嫌な世の中ですね…」
「何か言いました?」
「いえ、何も」

嫌なのは世の中ではなく私のほうなのかもしれないと、自虐的なことを思った。