ぶおお、という大きな音に頭上を見ると、何か得体の知れないものが街を破壊しようとしていた。ゆっくりと歩みを進めながら、家屋を破壊してゆく。中心部の穴から何かが噴き出し、それの噴きつけられた先がごうごうと燃えている。道を行き交っていたはずのたくさんの人々は、いつの間にかいなくなっていた。

「…!」

あまりの現実味のなさに茫然と立ち尽くしていると、背後から誰かに腕を掴まれた。――ウェルキンだった。
未だにはっきりしない私をしっかりしなよと叱咤しつつ、私の腕を掴んだまま巨大な何かから逃れるようにウェルキンは駆け出す。私も一歩踏み出すのにわずかに躓きながらもその後を追っていったが、ぶおお、ぶおお、と大きな音を発しながらその何かは私たちに覆い被さってきた。



生暖かいものに覆われる感覚に、目を開く。

「ぶう!」
「…夢オチかい」

いつの間にか木陰で眠り込んでいた私にハンスが擦り寄ってきていたのだった。“生暖かいもの”というのは、このハネブタの鼻だったのである。現実感をまったく感じていなかったから恐ろしさはなかったとはいえ、この豚のせいで変な夢を見てしまったと思うとなんとなく気分が悪かった。肩口でぶひぶひと鳴くハンスを両手で持ち上げると、

「あ、。起きてたのかい?」

手を土で汚したウェルキンがそばに立っていた。大方昆虫だか植物だかの採集でもしていたのだろうと当たりをつけて、わざわざ何をしていたかは訊かない。
手持ち無沙汰になって持ち上げたままのハンスをじいと見つめていると、突然ぎゅるると奇妙な音がした。

「…そういえばお腹すいたなあ」
、一応言っておくけど――ハンスは食べちゃダメだよ?」

少し焦ったようなウェルキンにわかってるよと生返事をすると、困ったように眉を寄せられる。ハンスの方は何もわかっていないのか、ぶひ、と私の手の中でまた小さく鳴いた。