視界の右を赤いものが掠めた。はっとしてアームはレーダーを見つめ、近づいてくる物体を凝視する。点だった赤はぐんぐんと大きくなり――その上にはぶんぶんと片手を振り回す少女の姿があった。 「郵便ですよ、伊舟さん!」 「、アンタいつの間に郵便屋になったんだい?」 満面の笑顔で一通の封筒を突き出している、どう見ても配達員には見えない少女に対し伊舟の口は弧を描いていたが、アキユキにはなぜかそれが鬼のように見えた。船長に届かないよう手を口元に添え、小声でアクシバに突然の来訪者について尋ねるも、アクシバ自身も詳しくは知らないようだった。 「たまーに尋ねてくるんだが、船長の知り合いだってこと以外は教えてくれねーんだよなあ」 「そうそう。前に一度訊いてみたんだけど、すっごい顔で睨まれちゃったの」 その時のことを思い出したのか、コバコは泣きそうな顔で自らの肩を抱く。アキユキはその伊舟の顔を想像してみようと思ったが、自分の貧困な想像力に情けなくなるばかりだった。ちらりとナキアミを見やるアキユキだったが、各々わずかに恐れおののいている船員とは違って彼女だけはいつもどおり、無表情のままだった。 「えーと、アキユキくん、だっけ?」 「――あ、はい、そうです」 艦内を歩いていたアキユキは、体に釣り合わない巨大な木箱を抱えていたに遭遇した。上半身が完全に隠れてしまっているその姿に、反射的に手を伸ばす。予想していなかった重さにわずかによろめきながら、木箱の脇からきょとんとする少女の右半身を見た。こんなのを抱えてよくこっちの顔が見えたもんだ、とアキユキは思う。 「いやあ、伊舟と違ってアキユキくんは優しいね。五臓六腑に染み渡るよ」 けらけらと冗談めかして言うにアキユキは苦笑を返しながら、そろそろ夕飯よお、と顔を覗かせるユンボを廊下の端に見た。 |